研究計画

更新日(承認日)/承認番号/公開orオプトアウト

2016/02/28 / KOBE-IRB-15-29 / オプトアウト

研究課題名

音楽による不快感情調整の神経科学的メカニズムの研究

 

試料・情報の利用目的(他機関への提供方法)/研究の意義及び目的

 本研究は、音楽聴取が不快感情を癒すメカニズムを神経科学的観点から明らかにすることを目的とする。音楽療法の分野で経験的に知られる「同質の原理」(落ち込んだときには暗い曲、興奮しているときには明るい曲・・など)について神経科学的観点からそのメカニズムを明らかにし、精神疾患への音楽療法の基礎的な理論構築を目指す。

 これまで本研究の共同研究代表者・河野理(徳島大学医歯薬学研究部放射線理工学分野)は音楽聴取時の感情反応に関する研究を進めてきた。機能的近赤外光分光法(fNIRS)を用いて、不快画像刺激による深い感情生成が腹外側前頭前野の活動に関与していることを明らかにし(Hoshiら2011)、また磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて視覚情報認知から不快感情生成過程を調査し、視覚情報が、視覚関連領野から補足運動野、前運動野および扁桃体へ転送され、右前腹外側前頭前野が情報を統合し不快感情を生成することを明らかにした(Kida ら2012)。また近年、腹外側前頭前野と扁桃体に情動弁別の脳機能区分が存在することも明らかにした(Kohnoら、2015)。また一方で、モントリオール神経研究所のSalimpooretalらは、機能的磁気共鳴法(fMRI)を用いた研究により音楽聴収時の感動や快感情に脳内報酬系(側坐核、尾状核)が関与することを明らかにしている(Salimpooretalら2011)が、まだこれまでの研究では、様々な音楽を被験者に聴取させて被験者の反応を計測するだけで、聴取時の被験者の感情状態による反応の違いは十分検討されていない。よって本研究では、この被験者の感情状態(気分)を意図的に制御し、様々な感情状態下で音楽聴取の反応を計測するという課題を考案した。これにより被験者の感情状態による音楽聴取の同質性を明らかにすることができると考えられ、音楽療法の「同質の原理」の機構の一端を科学的に明らかにすることができると考えている。

 被験者は健常人を対象とし、被験者の募集は徳島大学医歯薬学研究部放射線理工学分野もしくは理化学研究所CLSTで行い、MRI撮像ならびに音楽認知実験は理化学研究所CLSTで行う。データ解析は理化学研究所CLST並びに徳島大学医歯薬学研究部放射線理工学分野で行う。本研究は科研費(挑戦的萌芽研究)(研究代表者:河野理)により実施される。

試料・情報の利用方法(他機関への提供方法)/研究方法

 被験者に様々な時間タイミングで、情動画像刺激と情動音楽刺激を与え、被験者の生理反応の計測を可能とする実験システムを構築し、「同質の原理」の根拠を明らかにするための実験と解析を行う。また理化学研究所CLSTのMRI 騒音対策を施した聴覚刺激提示・発声コミュニケーションシステムを利用して音楽刺激提示を行う。また情動画像刺激提示課題を組み合わせることで、情動音楽刺激時の被験者の生理反応や情動反応を生理学的モニタリング(脈波、呼吸、皮膚電気抵抗、皮膚温など)により行い、頭部fMRI画像を取得する。解析には理化学研究所CLSTによる画像解析装置を用いた標準解析手法を適用し、高次レベルの統計処理・脳機能ネットワーク解析等を理化学研究所および徳島大学で行うことで、同質の原理の神経科学的メカニズムを探る。徳島大学は、被験者の募集と対応、視覚・音楽課題の作成と課題MRI実験システムの構築、各種データ収集条件の検討や実験データ解析を行い、理研はMRI画像取得の条件検討、fMRI撮像中の音楽聴取システム構築、生理モニタリングシステムの構築と条件検討、MRI撮像時の被験者の対応や撮像操作および画像解析を行う。

 被験者は研究の目的や内容について説明をうけ研究参加に伴う利益・不利益・危険性について説明を受けた後、文書・署名により研究参加を同意する(約15分)。被験者は、医務室にて質問票(国際標準化性格評価NEO-FFI)に回答したのち(約10分)、MRI中に行う情動画像・音楽刺激課題に対する説明をうけ課題遂行の練習を行う(約30分)。その後被験者はMRI室に移動し,MRIスキャナーの寝台上に安静仰臥位となる。被験者の右手には押しボタン付きのレバー装置を渡し,脳活動計測中に行う認知課題に対する反応を記録する。左手人差し指には脈波センサー又は胸部に心電図電極と腹部に呼吸数測定用ベルトを装着し,MRI計測との同時計測を行う。またMRI撮像中の緊急事態を外部に知らせるためのアラームボールが身体の左横にあることを確認してもらう。MRI計測では情動画像音楽課題遂行中の機能的MRI画像に加え、安静時機能MRI画像,脳の詳細な形態を記録するための脳解剖画像と脳領域間の神経の繋がりを同定するための拡散テンソル画像の計測を行いMRI撮像時間として約60分で終了する。研究主旨の説明から試験終了までの総拘束時間は120分以内とする。

 MRI の実験システムの中で、情動画像刺激と情動音楽刺激を与え、被験者のfMRI 信号と生理反応の計測を行う(図1)。情動画像刺激は、MRI のガントリーの後方に設置されたスクリーンに呈示され、被験者は、ヘッドコイルに取り付けられたミラーを通して、そのスクリーンを注視する。音楽刺激は、光を用いたノイズキャンセリングヘッドフォン(Optoactive)を装着し被験者が聴取する。また生理反応は、脈拍、皮膚抵抗センサーによりモニタリングを行う。

 画像刺激として、国際画像感情システム(IAPS)から不快感情画像と中性感情画像の2種類を30 枚ずつ選別する。また、音楽刺激として、気分が高揚している時に聴きたい曲(音楽刺激1)、落ち込んだ時に聴きたい曲(音楽刺激2)の2種類を30 曲ずつ選別する。(ここで、音楽の嗜好による被験者のばらつきを少なくするために、あらかじめ被験者にサンプル視聴させることによって、似た音楽嗜好をもつ被験者を選別(30 名)する。)

 実験課題としては、下記の①と②を交互に3回繰り返す課題(①―②―①―②―①―②)を構築し、被験者に対してカウンターバランスをとったデザインとする。 ①不快感情画像刺激(1 秒)―音楽刺激1(30 秒)-中性感情画像刺激(1 秒)-音楽刺激1(30 秒) ②不快感情画像刺激(1 秒)―音楽刺激2(30 秒)-中性感情画像刺激(1 秒)-音楽刺激1(30 秒) さらに、被験者に、実験中に感じている感情の快・不快状態を、レバーを右(快感情)あるいは左(不快感情)に倒し押しボタンを押して主観的感情スコアを報告する。

 実験データは、前記の実験デザインにおいて、情動画像刺激と情動音楽刺激を与えた時の1)生理反応データ、2)リアルタイム主観的感情状態スコア(快・不快レベル)、3)脳機能画像である。
これら実験データから、下記の6点の疑問点に注目した解析を行う。
1)被験者の感情状態(気分)によって、音楽刺激によって引き起こされる脳機能賦活領域、脳機能信号変化および生理信号の変化が異なるか否か?
2)扁桃体および腹外側前頭前野の信号が様々な曲調の音楽刺激によってどのように変化するのか?
3)不快情動において賦活される扁桃体の信号は、音楽刺激によって、抑制することが可能であるのか?
4)不快画像刺激よって賦活した脳領野の脳信号と音楽刺激によって賦活した脳領野の脳信号の間にどのような関係が存在するのか?
5)不快感情申告リアルタイムデータとこの脳領野の間にどのような関係が存在するのか?
6)扁桃体と腹外側前頭前の神経連絡性の強さがどのように変化するのか?

脳賦活領域の特定、脳機能信号変化の解析(領域間神経連絡性性解析を含む)は、理化学研究所で構築した脳画像解析システムを用い、1)「快不快の2種類カテゴリーからなる画像刺激」2)「気分状態を変える2種類のカテゴリーからなる音楽刺激」によって賦活された脳信号および3)「リアルタイム主観データ」から、一般線形モデル、脳領域間神経連絡性解析等による統計的評価を行うことによって、前述の評価内容に対する結果を得る。また解剖画像、安静時機能画像、拡散強調画像について国際標準化性格評価との関連性を調べるため理化学研究所内の脳画像データベースに登録する。

試料・情報の利用方法/入手するヒト由来試料等

種類 採取機関
性格評価、感情状態および生理情報(MRI画像データ、生理反応データ) 測定の主体:理化学研究所CLST
MRI撮像:理化学研究所 CLST

利用する者の範囲/共同研究機関名・利用目的

機関名:徳島大学大学院
利用目的・役割・分担:被験者の募集、ヒト由来試料/情報の採取/測定、ヒト由来試料/情報の分析/解析

利用する者の範囲/共同研究機関以外の外部への提供・利用目的

なし

他研究計画における情報の利用

なし

試料・情報の管理責任者氏名等/研究実施責任者所属・氏名・職名

ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能構築イメージングチーム・林 拓也・チームリーダー

研究対象者が識別される資料・情報の利用又は他の研究機関への提供の停止/同意の撤回があった場合の対処方法

提供者・被験者の求めに応じて廃棄する。ただし論文などで既に公表された後において廃棄はできない。

研究対象者等の求めを受け付ける方/連絡先

理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能構築イメージングチーム 林 拓也
Tel: 078-304-7140 Fax: 078-304-7141, e-mail takuya.hayashi[at]riken.jp
Emailでお問い合わせ等の際には[at]は@に置き換えてください

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