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No62

第62回 神戸事業所 研究倫理第一委員会 議事要旨

1. 日時 平成29年10月3日(火)16:00~18:15
2. 場所 理化学研究所 多細胞システム形成研究センター A棟2階 大会議室
3. 出席委員等
 
(委員)

加藤 和人 委員長 (大阪大学大学院医学研究科 教授)
上野 弘子 委員 (広報メディア研究所 代表)
黒澤 努 委員 (鹿児島大学共同獣医学部 客員教授)
永井 朝子 委員 (公益財団法人尼崎健康医療財団 市民健康開発センターハーティ21 所長)
松崎 文雄 委員 (CDB非対称細胞分裂研究チーム)

(説明者)

杉田 直 (多細胞システム形成研究センター
    網膜再生医療研究開発プロジェクト 副プロジェクトリーダー)
升本 英利 (多細胞システム形成研究センター
    網膜再生医療研究開発プロジェクト 非常勤研究員)

(オブザーバー)

深井 宏 (神戸事業所長)

(事務局)

片山 敦 (神戸事業所 安全管理室長)
菊地 真 (神戸事業所 安全管理室)
堀江 仁一郎 (神戸事業所 安全管理室)
吉田 道生 (神戸事業所 安全管理室)

4. 議事項目
 

(1)ヒト由来試料等を用いる研究計画に関わる審査(新規、変更)
(2)その他

5. 審議事項について
 

1)ヒト由来試料等を用いる研究計画に関わる審査(変更)

受付番号: KOBE-IRB-17-31
  「iPS細胞由来網膜色素上皮細胞の免疫原性解析」
研究実施責任者: CDB網膜再生医療研究開発プロジェクト 杉田 直

【概要】
 研究実施責任者の杉田副プロジェクトリーダーより、本研究計画の変更内容について説明があり、質疑応答の後、審議が行なわれ、承認とされた。

質疑応答等詳細は以下のとおり

★ 新しい共同研究機関を追加するということだが、やがて製品化しようとし、培養している細胞の一部をこちらの方で試験してみるといった流れなのか。
説明者: そうである。術後の拒絶反応を同定するような試験について、共同研究機関も試験系、検査系を樹立、開発したいということもあるのかもしれない。
委員長: 関連して完全に理解できていない気がしているのは、こういう実験系を樹立したいのか、それとも既に臨床研究のための検査として使えているのか。
説明者: RPEに関しては、すでに臨床試験として使えている。
委員長: 臨床試験のセットとしてか。
説明者: そうである。
委員長: 他人ならはっきりと反応が出て、本人のものは出ないということか。
説明者: そうである。RPEの場合は特にHLA抗原、ヒト白血球抗原という拒絶のときに主となる主抗原を合わせると、反応しないことも分かっているため、術後、拒絶反応が起これば、こういう検査系で同定でき、治療に実際入れるということになる。
委員長: 治療というのは。
説明者: 術後に拒絶の目の所見があったとして、加えて、我々のin vitroの試験でも、拒絶のリンパ球の反応があったとして、実際、拒絶の可能性が高いということになり、治療に入るということになる。
委員長: マッチするものを入れているのか。
説明者: そうである。マッチするものを入れている。
委員長: しかし他家であるため合わせてはいるが、やってみないと分からないというところはあるというわけか。
説明者: そうである。健常人の検討では、HLAを合わせるとin vitroでは全く反応しない。患者もHLAを合わせているため、術前の検査だと一切反応しない。ただし、術後は細胞を入れるため、HLAを全て合わせているといっても、他のマイナー的な抗原などが全然合っていないため、術後に拒絶が起こる可能性があると思っていた。しかし、実際、検査を走らせてみるといろいろなことが分かってきている。
★ 加齢黄斑変性の発症の原因というのは分かっているのか。
説明者: 加齢黄斑変性の発症の原因は、一番は加齢、年齢である。他はいくつかのファクターがあり、例えば紫外線であったり、あるいはもともと持っている体質で補体系が活性化されたり、いくつかの複合要因で発症することが分かっているが、一番はやはり年齢。
★ 加齢と一口で言うと分かりづらいが、例えば加齢に伴って炎症反応が強くなるとか、そういうことはあるのか。
説明者: 網膜色素上皮細胞の機能が落ちるということが分かっており、その機能が落ちると、上の視細胞がどんどん代謝されていき、その視細胞を貪食するといった重要な機能がRPEにはある。それが老化とともにそのファンクションが落ちてしまい、そういう代謝産物がどんどん貯まっていき、病気を発症すると考えられている。
★ 非常によく知られているのは、加齢に伴って炎症反応が亢進することが知られていると思うが、そういうことが年齢の高い人には多いということはないのか。
説明者: やはり年齢が高くなればなるほど、そのリスクは上がってくると考えられている。実際、発症が60代、70代、80代で比べると、年齢が高ければ高いほど発症率が単純に上がってくることが分かっている。
★ 普通であれば炎症反応もそれだけ亢進するように思うが、そういうことはないわけか。
説明者: 免疫学的には65歳以上になってくると、人の免疫力というのは少しずつ低下していく。免疫反応自体は年齢が上がれば上がるほど下がってくる。すなわち、拒絶のリスクは年齢が高ければ高いほど下がってくることになる。ただ、移植は一切無視し、加齢黄斑変性だけを考えた場合は、年齢が高くなると発症のリスクが上がることは分かっている。
★ 心配したのは、基礎知識として、老化の一つの症状として炎症反応が亢進するというのがあるが、人によって随分違うのかなという感じだが。
説明者: 実際、病態自体は人によって全然違う。年齢による病態の差というよりは、その人それぞれの病態の違いみたいなものはあると思う。
★ in vitroのシステムだと、それが個体から離れているので、同じようになるのかどうかが分からない。
説明者: それは経験・治験を重ねていかないと本当の答えはないと思うが、現時点では、術後の拒絶反応の判定には有用ではないかと我々は考えている。
★ 現在可能な方法としては有用だと思う。
★ 解剖学的な位置関係で、RPEの上層に視細胞があるのか。
説明者: そうである。
★ 網膜神経というのはどこにあるのか。
説明者: その上にある。iPSやES細胞から、網膜10層構造を全部作れるようになっている。
★ その視細胞はやはり加齢黄斑変性の治療のためなのか。
説明者: 視細胞の対象疾患は加齢黄斑変性ではなく、現時点では一番の対象は網膜色素変性症である。遺伝性の病気で、網膜色素上皮や視細胞などがどんどん悪くなり、視野が欠けていく難病に指定されている病気である。
★ そちらの方で今後、臨床が始まるということか。
説明者: そうである。
委員長: 共同研究機関は、資金は理研には提供しないのか
説明者: 別の実験用に資金を提供してもらっている。
委員長: この研究に使うのであれば、この研究計画の資金調達の方法のところが外部資金・公的資金だけになっているが。
説明者: このin vitroの試験ではもらっていない。
委員長: 基本的には比較的単純な変更申請であり、目的がはっきり分かった。

【審議】
説明者退席後、審査が行われた。

委員長: 本番をやりながら実験系を確立しているというところがあるが、確立できてきているということを確認できたのは良かったのではないかと思う。

2)ヒト由来試料等を用いる研究計画に関わる審査(新規)
受付番号:KOBE-IRB-17-30 「HLAホモiPS細胞由来心臓系列細胞及び細胞構造物を用いた心臓再生医療のための前臨床研究」
研究実施責任者:CDB網膜再生医療研究開発プロジェクト 升本 英利

【概要】
 研究実施責任者の升本研究員より、本研究計画の内容について説明があり、質疑応答の後、審議が行なわれた。審議では、研究計画全体としてのゲノム解析の関連等について議論がなされ、ヒトゲノム解析研究として様式を変更することを条件とした上で承認とされた。

質疑応答等詳細は以下のとおり

委員長: 1点は事務局への確認でもあるが、この同じ細胞は、既に幾つかの計画で使われているのか。
事務局: そうである。
委員長: その由来に関しての倫理面については、すでに複数回見ているというのが委員会側としての確認である。2点目は、この共同研究機関の会社はどういう会社なのか。
説明者: 私はCiRAの研究員でもあり、一緒に研究していた教授の研究成果を臨床に持っていくために作られたベンチャー企業である。
委員長: この会社は主に何をしているのか。これをまさにやっているのか。
説明者: まさにこの製品化に向けたところをやっている。
★ この会社はどこにあるのか。
説明者: 本社は東京だが、京都にラボを持っており、そこで研究開発を行っている。
委員長: そこのメンバーではないのか。
説明者: そことの利益相反はない。
★ ブタの実験を理研の中でやるのか。
説明者: 理研の中の動物施設ではブタが扱えないため、受託研究を行っている施設があり、この施設では各種実験および飼育が可能である。
★ 今回は実験用に開発されたミニブタだけを使ってやろうという計画でよいのか。
説明者: ミニブタを使用する予定である。
★ この倫理委員会と動物実験委員会の関係で、これは動物実験委員会は通った計画なのか。
事務局: 前後はその計画によるが、この計画の場合は、動物実験の部分は来年度からになると聞いている。
説明者: まず細胞の方からになっている。
委員長: 先ほどの細胞構造物を作るのに時間がかかる。
★ この倫理委員会を通った後、早速その積層した心筋細胞を作り、その後動物実験も続いていくということか。
説明者: そのとおりである。
★ 計画の中に前臨床試験と書いてあったが、これは前臨床試験なのか。
説明者: これに関しては、いわゆる前臨床安全性試験には入らない部分だろうと思う。既にベンチャーの方を中心に、前臨床安全性試験に関して準備している状況がある。その中一つとして、私たちの方でやる可能性があり書かせていただいている。ただ、今からこの細胞を作り、実際に十分なクオリティのものができるところが間に合わないかもしれないため、その場合はもう少し広い視野でのブタを用いた、より先の治療に向かうような研究をやっていきたいという意味合いにはなる。
★ 使うかもしれないということでもいいのか。前臨床試験のデータとして、これを使うかもしれない研究計画を今、審議していると思えばいいのか。それとも全然使わないのか。
説明者: 全然使わないとは言えない。
★ 前臨床試験となると、国内規格も当然あり、いろいろな国際的規格もあるが、そういうものは検討されているのか。
説明者: 十分認識はしており、実際には委託機関、あるいはそのCROにおいてその後の管理は行っている。例えばヒト材料を使うことによる安全性に関すること、毒性などに関する配慮、動物に対する愛護といった国際標準に関しては、CROも含め、十分検討はしているところである。
★ ヒト由来の細胞を使った前臨床試験のときに、ISOの国際標準があるというのは十分理解されているか。
説明者: 理解している。
★ ISOはISO TC194という委員会で作るのだが、その同じ委員会の中にanimal welfare requirementというISOがある。それも視野に入れて計画を立てているか。
説明者: やっている。
★ 前臨床試験をやれるのは、恐らく数年後ぐらいかなと見えるが、米国のFDAがGLP規則の改正案を去年の夏に出し、その改正案の中で1年後から執行、始めると書いてある。先生の研究をやっている最中にアメリカのGLP規則は変わっているリスクがある。それをよく研究し、それに合わせてやった方がいいと思う。ISO、FDAのGLP規則に耐えられるような計画をぜひともやるべきであるということを申し上げておく。日本の法制とアメリカの法制の全然違うところは、動物でやると言ったときに、ベテリナリーケアという言葉がある。これをやらなければ駄目だとアメリカではなっており、日本ではなっていない。そうすると先生がそこで頑張ってやっても、アメリカでは最低駄目と言われる、我が国の法律に合っていないと言われるような研究は、あまり倫理的ではないためしっかりやってくださいと言いたい。
委員長: 日本はありとあらゆる前臨床をやり、それで臨床研究に行くが、日本の枠組みがあるわけであり、それを変える義務があるのは規制当局ではないか。
★ PMDAとかである。
委員長: そちらは何をしているのか。
★ FDAのGLP規則の改正案が出ていることは伝えたので知っている。
委員長: 我々の委員会は、参考情報としては大事かもしれないが、理研の中で動物実験委員会があり、そこがそれを見る立場にいるため、理研の組織としてこうしないと理研の研究が進まない。最終的には海外での承認を得る段階になったときに、情報が足りないということになるのではないかと。日本は日本の規制でやっているはずであり、両方のレベルアップが必要で、そういう方向に持っていかないといけないと思う。
★ これが倫理委員会の主たる審議事項でないことはよく承知しているが、せっかくやるのであればうまくいった方がいいだろうというのが私の考え方である。お伝えしたとおり、そんなものがあるということで、よく心得て、研究はうまく、できるだけ早く人の健康に届くようにということで。
委員長: 日本のトップを走っている皆さんが声を上げるということが多分大事である。
★ ISOの文書というのは理研内にあるのか。
事務局: ISO文書そのものはない。最近の計画では、再生医療製品に関しての開発が進んでいるため、GCP基準などについて、PMDAが主に情報を収集し、必要な規制をガイドライン等で定めており、実際に臨床に近づいた段階で、当然確認して実施するというような体制にはなると思う。
★ 米国のFDAのGLP規則の改正案は、ホームページ上で取ってこられるが、ISOの文書は買わなければ手に入らないため気にはしていた。
事務局: 本日欠席の委員からの資料について事務局から説明したいと思う。「要配慮個人情報を含まない」にチェックがついているのは、ゲノム解析をする場合であっても、匿名化されているために、個人情報ではないという理解か」という質問がきている。これに関しては、本研究についてはゲノム解析自体は実施せず、そこは共同研究機関が実施し、その結果のみを用いる、配列情報等は扱わないということでゲノム解析ではなく、個人識別符号、個人情報の取り扱いがないということから、要配慮個人情報というのは含まないという形になっている。
委員長: 研究方法のところで、実施機関は京都大学と書いてあるが、全ゲノム解析すると書かれているとこのプロジェクト自体がゲノム解析の情報を持つように見えるが。結果が来るというのは実際何がくるのか。
説明者: COSMIC等のがん関連遺伝子等の変異率の有無に関しての情報のみがくる。
委員長: 分化した細胞の解析をするのか。
説明者: そうである。
委員長: 移植に使えるというものを作ったときに、全ゲノム解析するのか。全ゲノム解析というのはまだ費用が安くないと思うが。
説明者: そうである。分化のどのタイミングかということに関しては、まだ協議が必要だとは思っている。分化をした段階なのか、あるいはシートの作った段階であるのかに関しては、現状はっきりとは言いにくいところがあるが、結局、移植に使うものに近いものになると考えており、シートにした状態ではないかとは思っている。
委員長: シートにした状態で、サンプルを用いて全ゲノム解析、エクソーム解析、核型解析等を行う。ただし、解析した塩基配列情報は今回の研究では取り扱わない。事前に事務局と確認したが、理研ではこういう切り分けをすることになっていようであり、理研にゲノムがこない場合には、ここではゲノムの研究ではない。有無と変異率の結果だけ来るのか。
説明者: そういった結果のみである。
委員長: したがって要配慮個人情報を含まないということはこれで理解する。
★ 例えばブタに前移植して、その後もそのシートががん化しないかとかいうことは、おそらく見ていくわけではないか。
説明者: そうである。
★ そのときにその材料を取ってくるなどし、遺伝子が変化していないかといった試験は当然入りそうである。それを京大に送り、向こうではその遺伝子解析等もやるのは入っているというイメージでよろしいのか。
説明者: そうである。
委員長: ほとんど一体化している。もしブタで腫瘍が発生したと言えば、それはゲノム解析するのではないか。
説明者: そうである。
委員長: ヒトiPS由来のものがブタ体内でできてしまったとき、これはがん遺伝子が活性化しているのではないかとかいうことは見ないのか。
説明者: 見るかもしれない。しかし、それを見るということに関し、結局そのサンプルを用いて、理研の方でそれをやるのか、あるいはそれを京大でやるかということに関した場合、全ゲノム解析に関してかなりの経験がある。もう一つの利点は、もともとのiPS細胞を樹立した段階での全ゲノム解析ということに関しても見ているまめ、一括して京大で見ていただく方がよいのではないかと思っているが。
委員長: そこは分けた方がいいと思う。もともとのiPSのストックがあり、そこで細胞としていいものであるということを京大が調べるのは、独立した細胞の品質評価のための研究だと思う。それをもらってきて分化させ、心臓への治療のためのシートとして有効性と安全性を評価するのではないか。それには遺伝子解析を伴うと普通は思うが。それは、基の細胞の評価ではなく、この心臓のシートを作っている研究としての遺伝子解析は入ってくるし、この細胞の分析なのではないか。
説明者: そうである。
★ 心臓を見て何か腫瘤ができていたとし、それは果たしてシートから来たものなのか、悪性なのか、良性なのかということの解析は、当然ブタのいるところで材料を取ってこなければできない。委員長: それは完全に主体的にやっている、この心臓細胞の研究であり、京大はそれを逆にサポートして分析してくれるわけではないのか。
★ 申請者は重層のシートを作り、それの動物実験は京大の心臓血管外科に任せるのではないのか。理研で動物実験をやるのか。
★ CROのような機関があり、そこでやる。
★ 並行してやるということなのか。
事務局: そうである。細胞シートにするところは、申請者がされた同じ株由来のものを用いるということ。
★ 動物実験結果というのがあるが、理研で調製した細胞重層シートをミニブタ心筋梗塞モデルに移植するのが京大か。
説明者: そうである。
委員長: これは理研が実施するところが抜けているのではないか。
事務局: これは試料・情報についての提供、入手する機関の表になるため、理研でやる部分はこの表には入ってこない。他機関からの情報、試料の入手の表になっている。
委員長: 理研が行なう施設の話はどこにあるのか。
★ 研究実施場所の欄に理研所内、その他として。
★ オペ室、観察室、飼育室と書いてあり、ここでやると理解したが。
説明者: そうである。
事務局: 研究方法の動物実験による有効性と安全性の確認で、実施機関として理研と京大という形で記載がある。
委員長: シートを作るのは理研と共同研究機関が行ない、移植は京大と理研という位置付けでいいのか。
説明者: そうである。
委員長: それから遺伝子解析は京大が一手に行うが、できたシートをやると書いてある。これはなぜゲノム研究で出してしまわないのかが分からない。全体がこの計画なのではないか。
事務局: 理研の中、ここだけではなくて理研全体であるが、ゲノム解析をするということは結局、個人情報の保護で注意しなければいけない点というのが、医学系研究にプラスにされているという形の考え方である。実際に個人情報あるいは個人識別符号、あるいはゲノム解析自体を実施するのが理研である場合、理研の身分を持った方が扱う場合には、ゲノム解析研究という形で申請するというような手続きで来ている。ヒト由来試料研究の中でも、理研ではゲノム解析、ゲノム情報を扱わずに、他の共同研究機関あるいは委託でやる場合には、申請自体はゲノム解析研究ではない申請書で申請するが、その中身として他の共同研究機関等でゲノム解析を実施する旨を記載するというような形でこれまで来ている。
委員長: 了解した。ではやはり、ゲノム配列情報は理研にはこないと書いていただくか。
★ こういう複雑な、いろいろなところで分担してやるものは一度整理し、事務局が説明した考えでいいかどうか、よく考えてみないと駄目かもしれない。一番問題になりそうなのは、細胞シートが、がんや何かになるような変異を起こしたりしないかというところの安全性を一番確認したいわけで、そこは研究の主眼ではないか。しかし、解析は京大でやっていただくことになり、こちらではやらないとしても、申請者はそこを気にしているわけではないか。材料を取り、京大に送って見てもらって終わりということはあり得ないのでは。そこで出たら、理研に返ってくるわけであり、そうすると、理研が関係ないというわけにはなかなかいかないかもしれない。
★ 実験として、共同研究をやっているところが遺伝子情報を扱い、トータルとするとそれは遺伝子情報を扱っていることになるが、今の考え方であれば、A、B、Cで分けてそれぞれが協力してやっている理研の部分では扱わないため、遺伝子情報は扱っているとしないという形で、しかし、実験全体像を見ると、やはり遺伝子を扱った研究に、たとえ部分的にでも参加しているわけではないか。そうすると、理研も遺伝子情報を扱っている研究ということになるのではないか。
★ 自分が作ったシートが今後臨床的に応用されるということを期待して作るわけで、たまたま変な腫瘤ができたときに、その原因は知りたいのではないか。それが安全性試験として、こういう計画が立っているわけではないのか。
説明者: そうである。
★ そうすると、ここに先生が今知りたいことがあり、その中に遺伝子のデータも入るということになれば、やはりそれは研究の中に入っていることにせざるを得ないのではないかと思う。そこに研究の興味があるのであれば。全然そこに興味がない、そんなのはどうでもよく、シートを貼ってうまく着くか着かないかを見るとか、ファンクションのところだけ見ると言っていただければ、遺伝子の話はあちらでもいいかとなりそうだが、今回その安全を確認したいという研究目的の一つがあるとすると、これはやはり理研の研究かなと思える。
事務局: 考え方として、ゲノム解析指針と医学系指針で、そのどの指針に該当させるかというところの判断として、研究機関の長は、自分の所掌する研究機関で、そのゲノム解析指針に該当する実験を行う場合にはこの指針に従ってくださいというような仕分けにしてある。その意味で、理研の中で実施するものについて、個人情報の配慮などの判断で指針が分かれているため、その中で個人情報の保護等に関し、一部厳しい判断があるため、そこでの仕分けをしているだけである。実際に取り扱う内容等に応じて、現在の申請の形を取っている。理研で扱わない部分があれば、そこは結局該当なしということで、様式としてはゲノム計画としては該当しなくなる。計画として一つにまとめるというのは、方法としてはありだと思うため、そのあたりは理研全体の研究倫理協議会等での提起になるかと。
委員長: 何度か議論していると思うが、理研はいわゆる研究の下流になるが、逆に例えば病院がサンプルを提供するときに、DNA情報は何も戻ってこないが、病院でインフォームド・コンセントをとり、血液を採ってそれを送り、向こう側で全ゲノム解析を行ない、戻ってこないというときでも、やはりこちらに責任がある。自分たちの患者のサンプルがゲノム解析されるため、それはそこの委員会でゲノム指針の下で審査することになっている。ゲノム情報を扱うか扱わないかではなくて、何か倫理的責任という意味で入るか入らないかというのがあり、理研の場合は微妙である。
★ ただ、今回の場合は微妙で、すでに京大で提供している細胞自体が広く提供されてているもので、十分解析しつくしたものが来るだけで。
委員長: そうである。主体的にやられるのであればゲノム情報もやがて用いる可能性があるが、それはもう流布している細胞だということがあり、どちらにもとれる。
事務局: 再生医療に向けたiPS、京大がやっている部分のゲノム解析について、解析の手法とかその辺が京大の方で確立しているということで、その部分は任せるという形だと思う。その情報等について、今後の研究内容で配列情報の一部等についても情報を共有されるということであれば、ゲノム解析研究として変更申請等を実施するという方法もある。
委員長: 配列情報の部分であっても、いわゆる個人識別符号、40SNP以上の情報は個人情報になると改正指針でなったため、リスト、SNPの変化の情報など、気が付いたら、個人情報に当たるゲノム解析情報を先生が持っていたということがないとは限らないため、ゲノム研究として置き換えてしまった方が、安心していろいろな研究ができると思うが。来る可能性があるならば置き換えてもらうということではいかがか。
説明者: 実際それでがん化したとかいった場合は、それに全く関係ないということは勿論ない。
委員長: その時点でゲノム研究として申請してもらうというのもあるが、そこで時間がかかる。
説明者: 結果だけ上がってきた、塩基情報、配列情報は全くないとして、こういった遺伝子が変異をといったことになった場合に、それであれば例えば分化誘導方法を改良することによって、そういったものに関してはもっとダウンレギュレーションできる可能性といった、そういう研究の方向には行ける。つまりその配列情報がなくても、その先の研究には行ける。それが気になるとしても、気になることは配列情報ではない可能性の方が高いというのはあり得る。
委員長: 一切見ないということか。
説明者: 可能性の話になってくる。例えば変更申請の段階でそういう変更をしますということと、今ここで初めからしてしまうことに、どれぐらい時間的な違いがあるかというところが。
委員長: そのときは、ゲノム研究として新規申請してもらわないといけなくなる。
事務局: 通常、変更手続きでやっている。
委員長: 医学系研究からゲノム解析研究にか。
事務局: 途中でゲノム解析も実施するという場合、変更としている。
★ それを変えたところで、使う材料を考えると、重大な審議事項がいっぱい出てくるものではないのではないか。いずれにしても、研究が遅れる可能性が少しでもあれば、あらかじめ積んでおいた方がいいような気がするが。
委員長: 実際にはいろいろな面をこの細胞について調べないといけなくなると思うため、今日大で解析していようが、それは先生がメーンPIとして、全部責任を持って見るというようにこの図からは見えるが、個別のご意見は、「私の見るのはこの範囲です」と言われているような気がしており、そこのずれがある。
★ 手間というのはどれくらいかかるのか。研究者があまり書類ばかり書いていて、研究しないというのは具合悪いと思っているため、手間暇がそうでもなければ、それも出したらと言いたいが。
事務局: 実際にゲノム解析用の研究計画書とそれ以外で違うところは、ゲノム情報管理責任者等の設置などがあるが。
委員長: それは書類上あっても、こちらは匿名化しないため関係ないのでは。
事務局: そうである。該当しないため、計画上は変わらない。
委員長: ほとんど入れ替えるだけか。
事務局: そうである。このまま違う様式に移すだけというような形になる。
説明者: 了解した。
委員長: 明らかに遺伝子解析をするとこの計画内で書いてあるため、その方がきれいだと思う。
事務局: 計画の様式的な部分を変え、ゲノム解析研究として実施することで、今後例えば変異の有無だけではなくて、それに関連する配列情報などが来ても、この計画の中で対応できるという体制にはなるため、情報共有も可能である。申請者の京大の身分というのは続くのか。
説明者: 京大の身分は続く。外部研究員としてはいる。
事務局: そうすると、京大でミーティング等を行ったときに、理研としての身分でいるか、京大の身分でいるかというと、切り分けはなかなか難しいところがあり、そういう意味では、京大の方でゲノム解析しても、それは理研としても関わってくるところになるため、ゲノム解析研究として承認を得て置く方がいいのかもしれない。
委員長: そうである。どれぐらいゲノム解析そのものを、ファーストハンドというか、生を見たいと思われるかは分からないが、実際チームが解析していて、COSMICのこういうパネルのここにこういう変異があるといったものを見に行ったとしたら、それは微妙なところまで行ってしまう。
説明者: 了解した。
★ HLAホモ由来のiPSストックで、拒絶反応を起こさないのが大体日本人の20%か。
説明者: 17%ぐらいである。
★ ブタにもHLAタイプはあるわけではないのか免疫拒絶反応を起こさないブタを選び、正常なブタと疾患モデルのブタの2種類を用意するということなのか。
説明者: ブタに関しては異種移植になってしまい、全く免疫発現が違い、MHCのタイプが全く人と異なってしまうため、この実験においては、基本的に免疫抑制剤を使うことによって、そこを落とすということを考えている。
★ HLAは関係なく、免疫抑制剤を使う。それが影響して、委員が言われていたような、何か異変が起こるというのは考えなくても大丈夫なのか。
説明者: それに関して可能性はあるが、まさにその辺を調べたいがためにやるというところもあり、免疫抑制剤の量、例えば一つポイントとしては、この心臓におけるこういったiPSの治療においては、網膜などだとそこはハードルが低いが、心臓だとHLAのタイプがフルマッチだったとしても、やはり免疫抑制剤なしにはできないのではないかというような研究が幾つか出ているという状況がある。免疫抑制剤をヒトにやるときには、なしにできない可能性が高い。そうなると、あとは量の調節が多分メーンの研究テーマになってくると考えているため、それに関してはブタを使い、免疫抑制剤の量を調節してやることが可能ではないかと考えている。

【審議】
説明者退席後、審査が行われた。

委員長: ゲノムではないということでやっていたものだが、可能性は小さいかもしれないが、彼には全部を見てほしいと思う。フォーマットを変えるというのは、承認で軽微な修正でいいのか。
事務局: 議論いただいた中身からすると、結構重いところではあるため、条件付き承認という形で事務局側で様式を変え、ゲノム解析へ特化した分があるかないかの確認と、申請者が確認したもので見ていただきたいと思う。内容としてはほとんど変わらないが。
★ 研究の進捗状況から言ってもゲノム申請が必要になるのは先のようであるため、大丈夫ではないか。恐らく製品を作ろうとしており、この類いのものは、起こるのではないかと言われているため、例えばシートのへりの辺りに、何か線維化した組織、腫瘤みたいなものができ、これはがんか、そうではないかということになる。そのときに、研究がストップするよりは、あらかじめそれまでには申請が終わっており、すぐ遺伝子を全部調べてしまうという勢いでやらせてあげた方がいいような気がする。
委員長: 品質の安全性を見るためにゲノム解析する。それを自分がやることではないという、理研に来なければという話でもある。
★ 委員長のご指摘どおりで、研究全体をつかさどる研究者になり、いろいろな責任が増えてくる。今度はいろいろなものを見ていただかなければ駄目であり、研究計画書を書いていただくわけであるため、研究全体の中に少しでも興味があって解析しようと思うところに何らかの規制があるのであれば、それはクリアしておいてくださいという、大きな枠組みではないか。
委員長: あるパターン化されたがん遺伝子のCOSMICというリストがあり、その中にどういう変異があるかというのもパターン化しているため、パッケージを頼んでいるようなイメージもあり、そこは一応理解してあげないといけないと思うが、それでもそういう方向でということで、条件付き承認でいかせていただきたい。

 

6. その他
 

ゲノム解析結果の返却・開示:二次的/偶発的所見への対応について
 委員長より、ゲノム解析結果の返却・開示:二次的/偶発的所見への対応についての説明があり、意見交換が行われた。

説明後の意見交換等は以下のとおり

★ 消化器外科の教室で、ターゲットの疾患以外に疾患が見つかった際、それをどうするのかという話があった。その頃は臨床医に任されており、これも見つかったから取っておいたといったことをやっていたが、今やそんな時代ではない。どんなものもインフォームド・コンセントでやることになっているが、遺伝情報となるともっと大変ではないか。
委員長: がん全般だとすると、もう年間何十万、患者がいるわけである。ここでこういう遺伝性の話が来ると分かっていたときに、あらかじめそういう話をするのか、しないのか。日本中に認定遺伝カウンセラーは200人しかいない。200人で全がんゲノム医療を担えるはずがないため、がんの治療のための臨床系の学会が、臨床医に対してカウンセリングとか遺伝医療を教えるということで動いている。
 しかし、遺伝医療の人たちは、こういうところは、これだけのことをちゃんと理解してもらい、これだけの判断を患者にしてもらってというのがあり、国としてどういうシステムを作るかというのが、まだ議論されている。
 がん医療と遺伝医療という違う文化を擦り合わせて、両方の中に入れていく、特にがん医療に遺伝医療を入れていかないといけないという大変な状態である。医学としては一番典型的なのは、画像診断でCTを撮ったら、思っていたものではない腫瘍が見つかっているという話があり、それを偶発的所見という。
★ それはまだ侵襲性がないところでやっているからいいが、遺伝のものも同じようなことが起こると思う。
委員長: しかも遺伝の場合は対象は広がる、子どもとか広がるため、そこはなかなか悩ましいところである。
 もう一つの違う軸の議論としては、医療界は、ゲノム健康診断を、完全に健康なとき、あるいは若いときから、全国民に対してやるようになるのかという話があり、部分部分に今、ゲノム解析が入ってくるが、では生まれたときにやるのかという話である。
★ この情報を本人が知りたいか、知りたくないかによって違ってくるのではないか。本人が知りたくなければ、「知りません」と言っておしまいになるため、分けるしかない。義務にはならないが、伝える義務はあるかというところはどうなのか。
委員長: 今までは、30年前からどんどん遺伝子発見されたのでできてきたが、その分かっている情報に比較して、治療とか予防とかでやれることが少なかったため、知らなくていい人には知らせないできた。ところが、アンジェリーナ・ジョリーなどのケースは、これからどんどんデータが集まり、遺伝子の変異を本当に持っているのであれば、やはり何か介入した方がいいというようになってくる。そうすると、「知りたくない」と言われても、明らかにその人は何もしないと,寿命が短くなる、発症する。
★ 知りたくない人は、知らなくていいのでないかとは思うが、それは、例えばがんになっても、積極的治療を拒否する人もいるわけである。多分世界的にある背景としては、遺伝子治療がかなり現実のものになりつつあるため、その背景には、今の指針だと、そういうことを人にやった場合、指針に引っ掛からない可能性があるが、実際には、これは非常に有効になりつつある。それが治療に使われる可能性がかなり高いということで、見直しを今からしておかなければいけないという、治療の方法としての進展があるため、同時にこうことが並行して、それであればこういう情報は恐らく当人にとっても有用だろうという議論になってきている。
 以前は、知っても何ともならない、治療も何もできないので、言わないでおこうという感じだったが、海外で今こういう動きが強くなってきているのは、治療が可能になりつつあるからである。
委員長: そうである。先ほどの56個の遺伝子は、必ずしも物質を補ったり個体の中で遺伝子を置き変えたりすることで、対応できるというふうに思えないが、代謝系の遺伝子の異常とか物が足りない、酵素が足りないというものは結構、遺伝子治療のターゲットにどんどんなっているではないか。
 それで、ゲノム編集のCRISPR-Casが出てきたため、肝臓に遺伝子を放り込み、そこで作らせるとかいうのが言われてきている。そうすると、それは今日のこの話と完全にカップルしていて、分かる検査はやった方がよく、分かったことを伝え、そして遺伝子治療的に治療できるという方向に行く可能性はある。どういうことを治療するのかという整理をしていかないといけない。
 やはり全体としてはすごく実験的なフェーズであり、2013年にある種、非常にシンプルにこれだけ伝えましょうと言ってしまったが、実際には4年もたっているのに、まだ何を返すのがいいのか、それぞれの国でどうやったらできるのかというのも、なかなか議論が進まない。
★ 常識的に考えると、乳がんの優性変異を持っていたら、それは伝えないと心残りだろうなと個人的には思う。
委員長: だんだんそういう方向に行く。人間の知識というのは、そういう方に行く。修士課程の学生に、よくこういうサイエンスと倫理を組み合わせた話をしてくれと呼ばれているが、当事者がいるかもしれないと思いながらしゃべっている。入り口のところで、患者自身が時代を理解してもらわないともう手が回らない。
★ ただ問題は、まだ患者がいて、病識がある人から始まるが、遺伝子の話になると、もっとその前であり、全くそんなものが何もない人から始まってしまうわけで、医療というのとはまたちょっと。いわゆる健康診断と同じようなレベルから行くのかもしれなくて、話はものすごく大きい。CRISPR-Cas9の動物実験などを見ていたら、もう間もなくその辺でやりそうである。
★ アメリカではやりつつある。
委員長: いわゆる体細胞というものはやられており、有名なのが、HIVにかからなくするということで、リンパ球から受容体を取ってしまう。
★ 特にリンパ球の場合は、それで取り出してやれるため、より安全だということ。
委員長: アルブミンというのは、実は現在体内で産生されている量の1%あれば、人間は全く正常らしい。アルブミン遺伝子の構造遺伝子というたんぱく質を作る部分を、必要なたんぱく質酵素とかに置き換えておき、それを肝臓に放り込むだけで、肝臓はその酵素を作ってくれるため、それで治療できる、代謝病というものは何十種類それで治療できる。
★ アンジェリーナ・ジョリーのケースだが、この乳房切除というのは、乳がんが怖かったのだろうなと受け止めたが、その後、彼女は確か卵巣も摘出した。卵巣も摘出したというのを知ったときは、かなりやはり衝撃を受けた。例えば卵巣がんとか乳がんに彼女がかかる前に、別の例えば飛行機事故であるとか、別の疾患で亡くなる可能性もあるわけで、そういうことを考えると、どうしてそこまでしなければいけなかったのだろうかと考えて、やはり予防法とか治療法がきちんと確立されることが、まず一番だなとそのときに思った。予防法も治療法もない難病と言われているようなものであれば、知りたくなく、寿命をまっとうするということで。予防法や治療法が少しでも進んでいくというのが分かるのであれば、分かる可能性があるのであれば、やはり知りたいかなと思う。
 最近広告で、がんのリスク何%というのをわずかな血液を送るだけで分かるという広告が出ており、私の友人もそれを試した。読者の中でも、結構反応があったと聞いており、それはこれとは全くレベルの違う問題ではあるが、やはり知りたい人は、多いのかもしれないなと思う。けれども、知ったところで治るがんであればいいが、治らないがんとかいろいろな種類があるため、それはその人のQOLを考えた場合どうなのかと。すごく難しい。
委員長: いつでもそうだが、ブームというか、派手な報道が出たときには、それでは治せない人がいっぱいいるため、それにどうやって正しく伝えるかというのは大変な悩みである。
★ そうである。遺伝情報が個人情報の中に入ることになったと報告を受けたときも、まず驚いたのが、個人情報に入れて保護しなければいけないほどの遺伝情報が出たときに、リスキーなものだということを知らない人たちがすごく多く、簡単に、遺伝情報、病気を知りたいからというので、簡単な方法でどんどん企業に送ったりしている。けれども、そうすることが結局どんなリスキーなことなのかという消費生活の面などとも、やはりコラボレートさせて情報発信させていっていただきたいなと思った。臍帯血などはその最たるものだと思う。これでアンチエイジングできれいになれるとか、美容整形と同じようなつもりで、そのリスクを全然知らずに安易なクリニックで受けてしまったり、幹細胞と言えば、理研や京都大学でやっているため、すごくいいものだと誤解してやってしまう、そういう消費者教育が、これからこういう問題も含めて大事ではないか。
委員長: 日本人は、日本のことを心配して悪く言う傾向があるため、そうなっていると思うが、心配なのは、いつまでたっても専門家が何かちゃんとしてくれるという感じがあるのが、世界的には患者とかいろいろな人が、混沌の中からいろいろ情報を共有し、SNSでいろいろなグループをつくったりしている。
 日本の場合は、悪いものも断片的に、いいものも断片的にと、全然追いついていない。先日、韓国の人が来て、韓国ではもうeヘルスと言って、ネット上で情報を出し、医者が全部質問にダイレクトに答えるというのがすごく充実しており、今、健康大国になりつつあるという感じであるが、日本は全くそういうふうになっていない。
 アンジェリーナ・ジョリーなどが出てきているのも、アメリカだと患者同士が巨大なサイトを作っており、その中で、やはりある程度、心ある人は切り分けて情報を得ていると思う。
 実は卵巣がんは、もう多分アンジェリーナ・ジョリーが切除したときから、この遺伝子の変異があった場合は取った方がいいというのはエビデンスが出ているが、日本の人はほとんどそこまで知らないと思う。
★ 本当に皆さん、効果も危険性も知らない。我々が知っている限りは、ほぼある変異を持っていれば、確実に乳がんになる。
委員長: 乳がん80%ぐらいで、卵巣がんは二十数%と低いが、卵巣がんは見つかりにくいらしく、放っておいて検査だけでは駄目で、見つかってしまうと大抵進行していると聞いている。それもあるため、遺伝子で予防的に見つかったときに切除するのが結果としてすごくポジティブらしく、これは、はっきり言うと中学校とかで教えた方がいいことかもしれない。
★ そう思う。
委員長: 大体、自分の祖父母、親の世代を見渡し、早期発症の人がいれば、自分たちは危ないと思ってもいいわけである。知らないでいる権利が確立した段階で、100人の20歳の子を前にして、「もしも君たち家族の中でそういう人がいたら、本気で考えた方がいいよ」と、そこまで言うかどうか躊躇する。こちらのある種、専門の権威を持って言ってしまうと、それは誘導しているかなと思ったりもする。
★ ただ、やはりこういう情報、例えばがんだとか、いろいろな病気の情報というのは、まだ自分の体に全然変化が起こってきていない段階で、遺伝子の結果だけでそういうことを知るメリットと、それからデメリットというのは、多分全体的に同じようにワンパターンでくくることが全然できなく、個体差があるため、それぞれの個々人においてどうかという、そういう考え方をやはり持っていかないと、それこそ極端に言えば病気と一緒に生きていく、それでいいという、そういう考え方の人もあるので。
 特に乳がんなどであれば、本当に年齢が結構上の人でもあるというのが分かっても、もう取らないという判断をする人もあったりで、取ることが、その人の人生において大きなメリットをもたらすのか、幸せをもたらすのかというところに入ってくると、ただ健康と病気とのフィールドの中で判断する結果とは、恐らく全然違う結果がまた出てくると思う。それは、病気を治すという観点から行くと、いろいろな情報を駆使し、取って、そういうがん細胞とか、いろいろな病気がないように早くに持っていくというのはいいのだろうが、その人の人生観とかそういうものをそこに載せて考えると、それが果たして全てがハッピーなのかということになるので、とても難しいと思う。
委員長: そのため、がん医療の積極的に治療して手術してという文化の人たちと、遺伝医療の人たちが今せめぎ合っており、遺伝医療の人たちは全ていろいろなことをカウンセリングしてと、つい言いたくなるようである。それは先生が言われるようにきっと正しいが、技術自体はもうがん治療という全体に来てしまっているという状況であろう。
★ わずかな血液でいろいろなものを調べようという、さきほど話されていたそういう方も多いと思うが、多分そういう人たちは、「ある」と思って検査しに行ってはいなく、そういうものを調べて、自分が「ない」というデータをすごく期待して行っている人が多いような気がする。 
 やはりデータ的に女性の乳がんはものすごく多いとか、2番目が大腸がんでとか、そういうものが統計的には出ていて、それは知っていても、いざ自分が「実はここに乳がんがあって」と言われたら、それこそ目の前が真っ白になるということが実際には起こる。しかし、そういうことを分かって検査する人はあまりなく、もう少し軽く考えており、実際に自分にがんができていることを告知されると、やはりかなり落ち込み、リカバリーしてくるまでに少し時間がかかったりとか。知識として、早期発見、早期治療ということは十分に分かっていても、いったん事実が、現実が自分の体に降りてくると、反応としてはものすごいショックだと思う。
★ それが例えば盲腸だったとすると、別にどうってことはないが、盲腸でも、致死的ながんが起きる確率が高い遺伝子が仮にあったとしたら、それは知らせてもらった方がいいのではないか。
★ そうである。
★ しかし、乳がんはそうはいかない。やはり女性によっては、それが人格のかなり重要な部分を占める場合があるため、そこが問題になってくる。
委員長: そうである。これは事実なので、やはりこれを利用、ポジティブに利用し、社会の中で考える材料になったらいいと、そばで見ている人間は思うが、どうやって広げるかというのは、やり方がなかなか難しいので悩む。
★ 小出しにそういう情報をどんどん降ろしていき、そういう情報の受け止め方に、みんなが慣れていくことが大事である。
委員長: それはやはり日本はまずく、高校の生物学などでも、人間の医学系の話は非常に少ない。遺伝の話になってくると、差別だと言ってみんな逃げてきたため、世界的見ると、それは異常な状態だと思うため何とかしないといけない。
 これからも時々このような倫理と絡む現在の状況を共有していきたいと思う。

 

以上

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